ハードとしての確実な家作り : 実践編

19.内装工事   その1

 いつ頃から、内装工事という言葉が使われたのか、わかりません。
昔からの木造住宅には、内装工事という職種はありませんでした。
と言うのは、とりたてて内装を云々しなくても木工事が終わって、左官屋が壁を塗ると、部屋はもう仕上がっているのでした。
天井はすでに大工が仕上げてある、建具や畳が入って壁が塗られると、もうなすべき仕事はありませんでした。


 ところが、左官が施工する塗り壁は乾燥させる時間が必要です。
何もしない時間、つまり養生期間が生じてしまいます。
こうした何もしない時間は、忙しい現代にあっては省きたいものだ、と請負者は考えました。
そうした背景から、左官屋による湿式工法に代わって、乾式工法と呼ばれる別の工法が生まれてきました。
また、塗り壁は平で多くは無地でしたから、どうも現代人には、地味でおもしろみに欠けるとも、思われていたようです。

 以上のような事情で、元来コンクリート造の建物の内部仕上げとして、使われていたクロス張りが、木造建物の真壁から大壁への移行ととともに、住宅工事にも普及してきました。
クロスとは布のことです。
ようするに壁に布を張ることを、内装工事といいます。
今日ではビニール製の壁装材も、クロスとまったく同じ様に使われているため、ビニール・クロスという名前で、内装工事で使用されています。
ビニールクロスが安価で、大量に使用されているため、両者の区別は曖昧になってきています。
ですから布クロス(?)と言わないと、ビニールクロスの見本帳が差し出されたりします。

 その上、壁装材という意味からてんじて、クロスといえば壁に張る物すべてを、指すようにすらなっています。
クロスの見本帳の中には、竹や杉の網代、木目帳のプリント材、プラスチックをはりつけたものなども、登場してきています。
ですから、ここでも布でなければクロスではない、とこだわらずに、壁装材として内装職人によって施工されるものは、すべてクロスと呼ぶことにします。


 クロスを張るにしても、下地が必要です。
下地は見えなくなってしまいますから、堅固でありさえすれば、安いほうがいいわけです。
クロス下地には、石膏を厚紙でサンドイッチした石膏ボード、という 3×6尺の板状の材が使用されています。
天井に使われるのは、厚さ 9ミリですが、壁には12ミリのものを使います。
とくにコンロの近くなど火のまわりには、12ミリ以上の使用が義務ずけられています。
また、防音や強度を増すために、12ミリの石膏ボードを二重張りにもします。
石膏ボードの固定に鉄釘を使用すると、錆びた鉄の頭がクロスを透かして見えてしまうので、亜鉛メッキされた釘を使います。

 塗り壁と異なり、薄いクロスを張るので、下地は平らでないと困ります。
ところが石膏ボードと石膏ボードを突き合わせで張っていくため、どうしても多少の目違いができます。
クロスは薄く柔らかいので、ほんの少しの目違いでも、表にでてしまいます。
ですから、パテでしごいて平らにする下地処理をします。
パテは乾燥により、縮んでしまいます。
一度塗りだと、パテが痩せて、へこんでしまいます。
できるだけ薄く、二度三度とパテを塗り、サンドペーパーで平らにします。
こうして平らにしたうえに、クロスを張るわけです。

 建築職人の高齢化が進むなかで、クロス張りの職人だけは、若者が集まっています。
その理由は、クロス張りは短期間の修業で習得でき、その技術は 3ヶ月もやれば、おおよそ一人前の仕事ができること。
そのために新規参入が容易で、しかも、決して低賃金でないこと。
内装工事は工事工程のなかでも、最終仕上部となるため、工事おくれのシワ寄せが集中し、徹夜仕事になることも多い。
そのため、体力的に丈夫な若い人でないと勤まりにくいこと。
そして、伝統的な職種、たとえば瓦屋とか畳屋の仕事量が減っているなかで、クロス張りの仕事量が増えていることによります。


 匠事務所のクロスへの評価は、決して高くありません。
室内を構成する様々な要素を、細かく配慮して組み立てますが、クロスはその表面的な模様で、室内の雰囲気を一挙に決定してしまうからです。
室内設計とは、床、壁、窓、天井、照明、金物、額縁、巾木…細かい部分の積み上げです。


 クロスの表面に印刷された模様が、室内の雰囲気を決定してしまうとしたら、前述の細かい配慮は、無用のものとなってしまいます。
大量生産品であるクロスの使用は、往々にして単調で大雑把な室内になりやすいのです。
ですから、匠事務所ではあまり大威張りでは、クロスを使いたくないのです。
むしろ、室内の仕上げにクロスといったときは、設計者の発想の貧しさを示すものだと自戒しています。


 そうは言っても、クロスをまったく使用しないのではありません。
クロスにも、長所はあります。
まず何と言っても、施工が簡単です。
張り替え=模様替えにも、簡単に対応できます。
値段は、材工共で1、000円/u位からあります。
この価格は、最も安いビニールクロスに限られますし、施工面積も最低でも100uは欲しい所です。
1日分の仕事量に満たないような狭い施工面積では、この金額では無理です。

 ビニールクロスでも、通常は1、300円/uからでしょうか。
布クロスの中級品で2、500円/uくらい、高級品で4、500円/uくらいといったところでしょうか。
特殊なクロスになると 2万円/uというのもあり、これらはナイトクラブや店舗などで使用されます。
塗り壁が 3、500円/uくらいですから、クロスは決して安価な材料ではありません。
けれども、簡便であるがゆえに、安価だというイメージがあって、使用例が増えています。

 クロスには、無地物と柄物があります。
無地物は柄合わせの必要がなく、ロスが少ないので、実施工面積の一割ましの材料ですみます。
また、無地物でもエンボス状に凹凸の大きいものは、下地の不陸を隠してくれて、下地条件の悪いところや、張り替えには便利です。

 柄物になると、柄合わせが必要です。
そのため材料に無駄がでやすく、2割増しの材料をみておかなければ足りません。
クロスももちろん工場製品ですから、見本があります。
サンゲツ、リリー、スミノエ、カワシマといったブランドが、よく使用されますが、どれも大差はありません。
柄と値段さえ折り合えば、どれも同じです。
ただし毎年新柄が発表されて、少しずつ入れ替わっていますので、張り替えの時に以前と同じ物を、というわけにはいかないようです。

 クロスの施工は、裏に糊を付けて、天井のほうから張っていきます。
最初に張ったクロスのとなりに、2〜3センチほど重ねて、次のクロスを張ります。
次に、二重になった部分に定規を当てて、カッターで二枚とも切ります。
下になったクロスのはしを取り除き、上からローラーをかけて、しっかりと接着します。


 やさしいといわれるクロスの施工にも、もちろん技術は必要です。
前述のごとくに突き合わせで張ってありますから、糊の調子が難しいわけです。
糊を効せすぎると、乾いたときにクロスをひっぱってしまい、継ぎ目から下地が見えてしまいます。
糊が効かなければ、剥がれてしまいます。
というわけで、下手な施工は直後には問題がなくとも、半年もたてば欠陥が露呈します。
また、こすられたり、触れられたりする部分は、端が剥がれないように、コーキングで押さえておく配慮も必要でしょう。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい