ハードとしての確実な家作り : 実践編

16.塗装工事   その1

 建築塗装は、塗る対象物が大きいので、それによる制約がいろいろとでてきます。
とりわけ外部の塗装は、塗料を塗るだけで済んでもらいたいものです。
たとえば、焼付け塗装のような処理はできませんし、塗ったあとを研ぐなどという塗料も困ります。
建築の塗装では塗ったら塗りっぱなし、というのでないと困るのです。

 建物は雨曝しになっていますから、塗装するタイミングを上手く捕まえるのは、なかなか大変なのです。
しかも、濡れた下地には塗装できませんから、雨上がりの直後には塗装できません。
それを 3 回も 4 回も確保するとなると、他の職種にも影響がでかねないからです。
塗装一般にいえることですが、湿度の低い日に施工すると、きれいに上がります。

 塗装する職人のことを、通称ペンキ屋と言います。
塗料にはいくつも種類があるのに、ペンキを塗る場合が多かったので、ペンキ屋と言うようになったのでしょうか。
それはさておき、いつものことですが、塗装も下地がなければ始まりませんから、まず、下地のことから話を進めることにしましょう。

 左官屋の塗り壁に比べて、クロスのほうが、下地の施工精度は厳しいものが要求されるといいました。
ところが、塗装下地の施工精度は、クロス以上に厳しいものが要求されます。
塗料は液体ですから、下地の形にしたがっていきます。
凹凸があれば、あったなりに着色されていきます。


 塗装することによって、凹凸が隠れることはありません。
むしろ、塗料の種類によっては、凹凸をいっそう目立せさえします。
ですから平滑で均質な塗面を実現したいとしたら、下地処理に塗装工事の 90パーセントくらいのエネルギーを投じるべきです。
そのくらい、下地は大切です。
塗面に塗料をのせる時は、すでに塗面は仕上がっている、というくらいにしたいものです。
そのためには、下地を作るときから、ここは塗装で仕上げるというのが、徹底的に意識されている必要があります。

 
塗装工事は付け足し?
 木造の建築界では、塗装という職種は、どうも付け足しという感じがあります。
私たちの感覚は、その物の質感を直接に愛でることを好むらしく、塗料をかけてしまうと、何か汚された感じがするのでしょうか。
腕のよい大工で、木に愛着が深ければ深いほど、白木の木肌を大切にしたがるようです。

 木造建築のなかでは、塗装という工種は大切であるにもかかわらず、なかなか確立された技術としては、扱われないように感じます。
大工の長である棟梁も、塗装工にたいしては案外に冷淡で、とにかく色が着いていれば良い、という態度すらみせることあります。
しかし、塗装の性格からして、塗料がのるときはすでに結果が見えているといっても過言ではありません。
塗装の仕上がりは、下地作りに尽きると、もう一度確認しておきます。

 建物の内部と外部に別けて、話を進めていきましょう。
まず、内部ですが、木部にはふつう、塗の粉(とのこ)が塗られています。
しかし、これは塗装工によって塗られるのではなく、下拵えをした直後に大工の手によって塗られます。
塗の粉は、それ自身をみせるためではなく、木肌の保護のために塗られます。
建築中に素手でさわられると、手の油がついて汚れるので、それを防ぐために塗られるものです。
完成時には拭きとってしまいます。
けれども、木に一度塗るとその成分は、繊維細胞のなかに浸透してしまいます。
塗の粉も完全に拭きとるのは難しく、養生さえ完璧にできるのなら、塗の粉は使いたくないものです。
また、拭き取りが不完全だと、半年後くらいになって、塗の粉がスジ模様となって浮き出てきもしますから。

 塗料の種類によって、二つの塗装方法があります。
一つは塗膜(とまく)を作る方法で、もう一つは木の表面を染める方法です。
前者の多くは下地を隠してしまい、塗料それ自体を楽しむものです。
塗料が透明の場合は、木地が見えますが、表面に塗膜ができていますから、木と空気は触れません。
長年たつと、塗膜の接着力はだんだん衰えて、塗膜は剥がれやすくなってきますが、そうなる前に塗重ねを繰り返して、塗膜を厚くしていきます。

 塗装の本場、アメリカでは専ら塗膜を作る塗り方です。
何年にもわたって塗装に塗装を繰り返し、下地が何であったか分からないくらいに、厚く塗膜をつくります。
こうなると、塗料の本領が発揮されてきて、実に深みをもった貫禄のある仕上げとなってきます。
日曜大工の盛んなアメリカでは、一家の主によっても、気軽にペンキ塗りが繰り返し行われています。


 敗戦後、日本を占領したアメリカ軍が、日本家屋の室内をペンキで塗りたくり、日本人は眉をしかめました。
そうした思い出があるせいか、また、最近の日本人は家の手入れをまめにしなくなったせいか、ペンキ仕上げを軽く見ているよです。
しかし、塗装の質とは、塗料その物の質よりも何回塗ったかにある、といっても過言ではありません。

 建築塗装は、一回か二回塗りで仕上がらないと困る、前述しました。
しかし、本当のことを言えば、新築時の塗装では、塗料本来の性能はでていないのです。
何度も何度も塗り重ねることが、塗装本来の姿です。
ピアノ塗装にしろ、自動車塗装にしろ、良い物は必ず何重にも塗られています。
建築塗装が、一度の塗りっぱなしで許されているのは、塗面それ自体を楽しむのではなしに、下地の保護とせいぜい表面の色を楽しむだけだからでしょう。
日本でも、塗面の質感などが評価の対象になってくれば、建築塗装ももう少し高級な仕上げになってくるかも知れません。


 塗装材料、つまり塗料は安い物です。
塗装の質感は、何度塗り重ねたかによりますから、充実感ある塗装は、つまるところ手間のかけかたです。
高価な塗料を使ったかではなく、何回塗ったか=どのくらいの人手がかかっているか、これが塗装の価値です。
建築塗装の歴史の浅い日本では、塗料を塗ることの意味が違うようにとらえられています。
何度も塗るという手間を嫌い、まさに食わず嫌いという状態で、塗装はクロスに侵食されています。

 塗装に限らず、長年にわたって手入れされることによって、本来の性能を発揮する材料は、近年だんだんと廃れています。
10年後には、上品で貫禄をもった建物になっています。
しかし、新築の今は質素です。
これでは建築主は、なかなか納得しないでしょう。
しかもその間、不断の手入れが必要とあっては、よけいに歓迎されません。
いくら匠事務所だとしても、完成引き渡しのときに、あまり見栄えのしない材料は使いにくいものです。
その上、毎年ペンキ塗りに参上するわけにもいきませんから、自然と塗装仕上げは減っていきます。


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「タクミ ホームズ」も参照下さい