ハードとしての確実な家作り : 実践編

 ここまでの作業を終えると、下小屋から再び現場に戻ることになります。
基礎の上に土台を敷きならべ、その上に柱などの木組をのせていきます。
土台より上の骨組を組み立てるのは、建て方工事と呼ばれます。
また、この建て方により屋根の頂上に棟木をのせるので、上棟とも呼びます。
上棟により家の形ができて、建築の一区切りがつきますので、上棟式という儀式をやるのが普通です。
まだ木工事は続きますが、ここで建方工事に話を進めます。


4.建て方工事  その1

 木材を加工するのは、大工の仕事でした。
しかし、それを組み建てるのは、大工の仕事ではありません。
ほんらいは、(とび)職の仕事です。
現在では、建方に大工も参加する場合がふえましたが、昔の上棟には、大工は道具を持って行かなかったとか。
これは、自分の仕事に間違いがない、という大変な自信です。
それにしても、大工が加工した材を、別の職方である鳶が組み建てるのは、不思議な思いがします。

 どのように加工したかは、木材を加工した本人が一番良く知っているはずです。
ちょっと考えると、家のように複雑な物は、実際に自分の手を使った大工職人以外、組み建てることが出来ないように感じます。
たとえ可能であっても、ひどく能率が悪いように思いがちです。
ところが、刻み仕事も大勢の大工が、部分部分を担当しているにすぎず、上棟までの作業はシステム化された分業です。
木工事 その3、絵図板・番付を参照)
ですから、そのシステムさえ知っていれば、木材の加工方法を知らなくても、誰にでも家は上棟できるのです。

 
ロープ使い
 建て方には、ロープが大活躍します。
まず、搬入までは、車の荷台で材を縛ってきます。
現場にくると、高いところに材料をあげるのはほとんどロープによります。
特に大物は、二人がかりであげます。
簡単に結べて、簡単に解け、しかも、途中でずっこけては困ります。
あげている最中に、ずっこけては危険この上もありません。
どれも、教えられれば簡単な結び方ですが、やはり長い間に生み出された、素晴らしいノウハウです。

 それにしても、建方に道具を持って行かない大工とは、何という自信なのでしょう。
自分の刻んだ物に、間違いがあるはずがないという信念は、ただ驚きです。
前述のように、棟梁は立体としての家を頭の中に描いていて、その構成部材として木材を加工させていました。
ですから、全ての材を部品として用意することが可能でした。
建方前の木材は、ちょうど組み立てキットのように、全ての部品が完璧の状態でパックされていると、思っていただければ良いと思います。

 ホゾ(穴)の開け忘れ、ホゾ勝手の違いと言った些細な間違いから、部材寸法の間違い、部材の不足等などといったように、間違う可能性はたくさんあります。
そうしたなかで、部材の不足などという重大な間違いは言うに及ばず、穴の開け忘れまで、一つの間違いもないと言うのは大した仕事です。
しかし、最近は棟梁の質が落ちため、なかなかこうはいきません。
建方をしている隣で、あわてて加工し直している風景も目にする昨今です。


 建て方は、土台の上に柱を建てることから始まります。
墨付けの時に、この家はどの部分から建てるか、ということは当然考慮してあります。
その順番を間違えると、建ち上がらなくなってしまうことすらあります。
普通は、敷地の奥まった部分といった、一番面倒な箇所から建て始めます。

 柱を一本ずつ立てて、隣の柱と連結されないまま、そのままにしておくと倒れてしまいかねません。
そこで、仮筋(かりすじ)といって、仮の筋違(筋違につては後述)を建物の室内側に、釘で固定しておきます。
そして、次々と柱を立てながら、適宜なな分だけずつ、をのせて柱のてっぺんをつないでいきます。
もうここまでくると、柱がどうとばかりに倒れることはありません。
ぐらぐらと揺れはしますが、総持ちになった柱は、家の形を成して行きます。
次々と柱が建ち並び、はや桁の上には、鳶の職人がのっています。

 鳶と言うのは、何と身軽なのだろうと、いつも驚きます。
5メートル近い空中の一本橋を歩くだけでも恐ろしいのに、その上で物を持ったり、作業をするのですから、大したものです。
高所と言うのは、下からみるのと、上から見下ろすのでは大違い、空中にいると本当に高く感じます。


 建方工事は、たくさんの人手が必要です。
搬入する人、搬入された材を確認する人、建て方をする人、建て方の場所まで運ぶ人、建て方を手伝う人、上に上がる人などなど …。
大手の建設会社だと、これに指図する人、偉い人、それを見物する人…。
今日のように人件費が高くなると、大勢の人を何日も動員するわけにはいきません。
ですから、短期決戦の一日勝負です。
建て方は、大勢の人が集まり、家作りの最も華やかな一日です。

 柱を建てては桁(二階建ての場合は胴差(どうさし)と呼ぶ)をのせ、柱を建てては桁をのせてという具合いに、建て方は進行していきます。
最近は、平屋はあまりなく、ほとんど二階建てですから、柱というと通し柱があります。
通し柱とは、一階と二階を通して一本の柱を使用することで、ほかの柱よりも太い4寸角(120ミリ角)のものを使います。
通し柱は、一と二階を貫通しているので、間取りとの関連をもっています。
ですから、通し柱はどこにでも建てられるものではありません。
多くは二階の四隅に使われます。
(それが一階のどこに降りるか、設計時に検討すみです)


 一階の格好が見える頃、昼食となるのが多いようです。
昼休みも過ぎ、午後一番の仕事は、建て入りの確認といきたいところです。
建て入りとは、垂直のことで、建て入りの確認とは、柱が垂直に建つようにすることです。
多くは二階まで立ち上がってから、建て入りの確認をしているようですが、一階まで立ち上がったところでも確認をしておくべきでしょう。
というのは、たくさんの部材がつけばつくほど、家の歪みはなおしにくくなるからです。

 

 上手に刻まれている場合は、ほとんど歪みはありません。
また、仮筋に頼らなくても、柱は垂直に建っています。
しかし、それでもやはり確認はすべきです。
柱の倒れに対する匠事務所の許容誤差は、3メートルにたいして太い墨一本つまり1ミリです。
鉄骨学会基準では H/2500+10もしくは5ミリ のどちらか小さい方となっています。
いかに木造の家がデリケートだかおわかりでしょう。


 歪んでいる場合は、ABをロープで結び、AB間の距離をつめます。
すると、柱がおきて垂直になるという仕掛です。
垂直が確認されると、今度はガッチリと筋違を釘で打っておきます。
ただし、この筋違も仮のものですから、室内側に設置されます。
本当の筋違は外壁を張るときに、柱や桁をかきこんで、柱の外側に取り付けます。
本当の筋違を、どこにいれるかは、設計図書にきちんと示されています。

 二階部分を建てるには、足場がありません。
普通、建て方だけのために、足場をかくことはありません。
足場はあくまで、鳶以外のためのものです。
そこで、鳶は、通し柱の中間当りに、丸太を水平に縛りつけます。
この丸太が、二階を建てる足場です。
この上にのって、二階の柱を建て、桁をのせていきます。
そして、桁と梁をからませて、家の形はほぼ全容を現してきます。
その上に、小屋束をたてて母屋をのせ、母屋の形を作ります。

 木組という言葉がありますが、ここまでは釘を使いません。
仮筋は釘打ちですが、これはあとで外してしまうものです。
ですから、家の構造を支える土台や柱や桁、梁には、今でも釘は使用していません。
建方工事の最中に、釘を使用することは、かえって能率が悪いのです。
どんなに安価な家でも、ここまでは釘を使用することはなく、木と木を組んで建てていきます。
ここで再度、柱の建て入りを確認します。
一階の時と同じ要領です。


次に進む          目次へ戻る

    

「タクミ ホームズ」も参照下さい